2014年3月1日(土) 第23回月1原発映画祭/交流カフェ 権上かおるさん「福島・除染現場の現実」の報告

2014年3月1日、地域から未来をつくる・ひがし広場 第23回月1原発映画祭は、福島・除染現場の現実について権上かおるさん(環境カウンセラー)、県民健康管理調査と甲状腺検査について菊池京子さん(フリーライター)のお二人をお迎えして、現在福島では何がおこっているのかをテーマとしてお話をお伺いしました。

今回は、この報告会での権上かおるさんのお話を掲載します。菊池京子さんのお話は後日掲載予定です。


「福島・除染現場の現実」

お話:権上かおるさん(環境カウンセラー)

本報告のPDF版

こんばんは。権上かおると申します。材料分析や専門書の出版を職業としています。並行して長年、環境NGO酸性雨調査研究会で大気汚染や酸性雨を中心とした環境調査活動を行っています。このような経験から、原発事故以来「おそれて、こわがらず、放射能に立ち向かって暮らす」という情報発信をはじめ、生活者と科学者の橋渡しになることができればと活動してまいりました。また、福島の除染現場に立ち会う機会も多くなりました。最近では福島原発から流れ出す汚染水のニュースに隠れ、除染に関する報道は少なくなっています。本日は現在福島で行われている除染について、実態と問題点をお話させていただきます。

1. 除染とはなにか?

今回の事故がなければ 「除染」という言葉を耳にすることはなかったという方々が多いのではないでしょうか。除染とはなにか。環境省は次のように定義づけています。

「除染とは、生活する空間において受ける放射能の量を減らすために、放射性物質を取り除いたり、土で覆ったりすること」

環境省 除染情報サイトより「除染進捗マップ」

除染の対象となるのは地図で色がついている地域です。放射性物質汚染対処特措法に基づいて定められています。福島県のみならず、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県および千葉県下の市町村にわたっているのがお分かりになると思います。除染について、管轄官庁の主体は環境省になっています。
まず、放射線量により、1)除染特別地域(楢葉町、富岡町、大熊町など11市町村)と、2)汚染状況重点調査地域に分かれます。2)に該当する地域は福島県内の福島市、郡山市をはじめとして1)以外のすべての地域が入ります。中央の円のなかには、環境省が目指す除染目標が描かれています。環境省は線量によって地域分けをし、それぞれの地域ごとに目標を置いています。では福島第一原発から 20-30km 圏内、居住者がいる地域での除染はどうなっているのかを具体的にみていくことにしましょう。

2. 除染についての詭弁

1) 2011年5月ごろ、「ひまわりキャンペーン」というものが始まりました。放射能で汚染された土壌の放射性物質をひまわりに吸収させて取り除くという計画です。宇宙航空研究開発機構の山下雅道専任教授ら、宇宙農業に取り組む研究者有志がその社会的な肩書きのもと個人の立場で進めたもので、一時期、復興の象徴ともなったキャンペーンでした。しかしながら、2011年9月の生育したひまわりの放射能濃度分析結果の公表で、効果はほとんど見られないことが判明しました。

2) 2012年2月、南相馬での国際会議で、東京大学教授の児玉龍彦氏は「決意と覚悟をもってコストをかけた除染へ」というプレゼンテーションをしました。100万人以上の居住地区、すなわち、双葉郡8町村、南相馬、いわき、飯館村、伊達、福島、二本松、本宮、郡山、その他の地区50万戸を対象に、1戸について500万円の除染をするというものです。総計で2兆5千万円のコストをかけての除染という内容でした。福島県では、自治体ごとに入札制度で除染業者が決定されることになっていますが、1つの市町村に1つの大手ゼネコンが入り除染をするというしくみから、国の予算、つまり税金が除染によってゼネコンへ流れていく構図が明らかです。ここのところ縮小傾向にある公共事業が除染という形でやってきたことになります。しかもこれらのゼネコンは原発をつくった会社でもあるわけです。仮にそれだけのコストをかけて除染したとして、掘り起こした膨大な土や材木などをその後どのようにするのか、どこへ持っていくのかという問題もでてきます。これらの点から現実味を欠いた提案とされました。

3) 次はプルシアンブルーについてです。これは福島県天栄村で試験的、限定的に使用されました。プルシアンブルーとは「紺青」とよばれる顔料です。セシウムを除去する効果があるというので、水田散布実験を1か所行いました。しかし、この顔料はかつて地下水汚染問題となったことがあり、熱やアルカリに弱く、有害なシアン化合物を遊離させます。また、水田用水や土壌には、プルシアンブルーで除去できるイオン化した放射性セシウムはほとんど存在せず、すでに粘土鉱物と結合した放射性セシウムではまったく効果が期待できないということが判りました。

3. 住宅除染について

住宅除染は住民にとって必要最低限の強い要望です。だれでも自分が住んでいるところから放射性物質を遠ざけたい、除去したいという気持ちは一緒です。では、住宅除染はどのくらい進んでいるのでしょうか。先に述べた「汚染状況重点調査地域」の住宅除染進捗度について、環境省は平成25年10月、下記のように発表しています。

学校・保育園等が96%の進捗度
公園・スポーツ施設が85%の進捗度

住宅除染の実績数は、前回から1.6倍の66,000戸となり
実績割合も前回の30%から約44%へ(大きく増加している)

この報告では進捗度があらわされているにとどまり、除染方法や実際値の公表はありません。特に、屋根除染について、伊達市、郡山市のように自治体として行わないことを決定したところもあります。屋根は登るのが大変であること、斜めの角度での危険な作業となること、住宅の古さ新しさによって一貫性をもった作業ができにくいこと、かわらが傷むなど住宅を破壊する危険性があること、込み合っている住宅地では隣の除染したものが自分のところに飛び散ってくるなどという理由があげられます。

しかし、そこに住んでいる人にとっては、屋内で過ごす時間が長いことから、外部被ばく線量低減のために屋根の除染は欠くことができません。屋根に高い放射性物質があるまま、直下で寝起きすること、睡眠をとることを想像してみてください。一番優先されるべきなのが屋根の除染であるにもかかわらず、環境省がだした進捗度にはこうした重要な部分が反映されていません。市がやらないと決めた部分はパーセンテージを出すときに、もともとないものとして分母から除外されます。

その後、2013年4月24日に初めて新聞紙上で、福島県除染廃棄物対策会議による「住宅除染における放射線減少率の目安」が発表されました。

屋根 34%
雨樋 53%
壁・塀 43%
舗装面 46% コンクリート
38% アスファルト

この発表には除染方法と得られたデータの詳細が記載されていませんでした。
一方、2013年1月18日に環境省が公表した除染結果の資料では、除染をした後にかえって数値が上がっているというデータも含まれていることが示されています。環境省のデータでは低減効果のある2,000cpm以上を対象としています。一般に除染は低線量下でより困難となるため、2,000cpm以下でのデータもまた重要になってきますが、切捨てることによって対象外とされます。このようにして当面する問題から逃避していることがうかがわれます。

4. 除染方法について

住宅の除染方法としていくつかご紹介します。

高圧洗浄  (写真福島市)

1) 主流は高圧洗浄

これはポリッシャーやブラシで洗い流していくものです。しかしながら、屋根等では高圧水による破損や雨漏りをまねき、除染水が隣家に降り広がる問題もあります。

2) ショットブラスト

(大熊町役場周辺). 直径1 mm程度の鉄球を高速で除染対象に衝突させ、除染対象の表面を薄く切削する除染方法です。この方法は平坦な舗装面で効果が期待できますが屋根等起伏のあるものは適用できません。

3) ペーパータオル

原発で「ウェス」とよばれ、除染に使用されるペーパータオル。霧吹きで屋根を濡らした後、ウェスで拭いていく方法。環境省の資料では、屋根における低減効果は15%と低い数字となっています。

環境省「国および地方自治体がこれまで実施した除染事業による除染手法の効果について」をみると、屋根は高圧洗浄で55%、洗浄(ブラッシング併用)で40%、紙拭き取りは15%という低減率でした。実際に行ってみると、除染水の処理や除染時の洗浄水の拡散などの問題を避けるというところから、最も低減率が低いのにもかかわらず、ペーパータオルで拭き取るという手法が多くの自治体で採用されています。つまり効果の少ない方法が多用されているということになります。
このほか、南相馬市の民間コンサルタント会社【注記】が開発した効果的な除染方法があります。この方法は3.5%の濃度の過酸化水素水(オキシフル)を屋根に吹きかけて洗浄するものです。

過酸化水素水を屋根に吹きかけます

屋根瓦の洗浄水を雨樋から回収

 
除染後は除染水を回収し、浄化して放流するという方法です。浄化方法は除染水が1t/日以下であれば、モミガラ浄化法が最も簡便で安価な方法となります。

除染後の過酸化水素水をモミガラで浄化しているところ。除染水は発泡し、汚染物質を多量に含んでいる。

除染水: モミガラ浄化後(左)、モミガラ浄化前(右)

モミガラを使った除染方法は、福島県生活環境部による、平成23年度福島県除染技術実証事業実地検査結果にて、「効果あり」と認定されています。これは使用材料がとても安価であること、高所作業車から過酸化水素水を噴霧するため、屋根に登る必要がないこと、作業のスピードも期待できるなど、実生活の場にある問題を解決しようという地元企業ならではの細かい配慮がなされている除染方法といえるでしょう。

平成23年度福島県除染技術実証事業実地検査結果
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/jyosen-houkoku0427.pdf 52頁

5. 農用地について

国の農用地除染方法は、表の土、表層5cmほどをはぎとり、そこへ別の土を入れるというものです。また、表土から深さ30cmまでを掘り返して下の土と入れ替える方法もあります。
飯館村の農用地除染を見てきました。田畑の表土(5cm)をはぎとり、栄養がない山土(真砂土)をそのあとに入れています。もともと飯館村は花崗岩の真砂土由来のやせた土地であり、数センチの農用地土壌をつくるのに数十年かかったとのことでした。このような状態のところへ山土を入れるということは、田んぼの土壌が痩せてくることを意味します。しかし当面は土壌が痩せて雑草が生育しがたいとして実施しています。今後、将来の農業再生を視野にいれた対応が必要になってくるでしょう。

また、農用地ため池の底に高濃度のセシウムがたまっているという問題があります。
福島県内のため池等における放射性物質の調査結果位置図

2013年12月8日福島県内1,900か所の農用地ため池底質のうち、40%が指定廃棄物基準である8,000ベクレルを超える高濃度の状態であると県が発表しています。ここに台風や大雨となった場合、水深の浅いため池で、堆積した放射性セシウムを含んだ懸濁物質が撹拌されて流れだし、水路を通じて水田等外部へ拡散していきます。まさにため池に沈殿・堆積している底質は、放射性物質時限爆弾の様相を呈しています。これらのことから農水省や福島県、住民は、ため池の除染が急務と考えています。一方環境省は「農業用ダム・ため池は除染対象ではないので、一切の対応を行わない」として、除染費用をこれに回さないこととしています。また、農水省の除染関連で発生した放射性物質を含む破棄物について、環境省管轄仮置き場への搬入を認めていません。

6. 森林除染

森林除染はほとんど手つかずといえます。
2012年7月25日、環境省は第5回環境回復検討会で森林全体の除染は「必要がない」と発表しました。広大な産地を再生する国の責務を放棄したことを意味します。当然ながら、地元の猛反発にあいました。そして2012年9月19日、有識者検討会議において、原発事故で汚染された森林の除染方針に関する中間報告を提示しました。ここでも「森林全体の除染を行う必要性は乏しい」との見解に対し、福島県内の自治体や住民から強い反発があったことから、見解の明記は見送られたまま現在に至っています。このような経緯から、森林除染については住宅から20メートルの部分とホダ場など、一部の森林内を除染するにとどまっています。
こちらは福島県楢葉町の森林除染のようすです。草刈り機で除草をし、熊手を使って落ち葉の回収がなされています。落ち葉・落枝などの堆積層(リター層)は竹ぼうきにて除去されました。「除染情報プラザ」 除染活動レポートvol 27より

除染作業前

除染作業後

落ち葉、落枝などの堆積層(リター層)が竹ぼうきにて除去されているようす。
奥に青い作業着を着た除染従事者が作業しています。

7. おわりに

以上が除染の現状であり、現場です。
環境省はこれまで大きな予算を持ったことがない省庁。そこに初めて「除染費用」という莫大な予算配分がなされ、除染の管轄省庁となりました。しかし、現場では作業が円滑ではなく、指揮・監視体制も十分とはいえない状況というのが実感です。
除染が進んでいないことや、巨額の除染費用について、「やっても無駄だ」という意見も見られます。実際に放射線量が比較的高い地域に住む人々の要望や、地域の線量格差を考慮せずに「無駄である」とすることはできないと思います。なかでも屋根の除染は居住者の被ばく量を減らす効果が大きいのです。
一方で、「除染とは移染にすぎない」という意見も多くあります。汚染された土やがれきが場所を変えるだけでなくなるわけではないという考え方です。ここで考えていただきたいのは、「放射性物質の減容化」です。児玉教授の案のように屋根すべて取り換えたとして出る廃棄物量と対照的に、前述のモミガラを使用して行われた相馬市150戸の住宅除染では、廃棄物となるモミガラはたった5㎥であったそうです。どちらが汚染物質の管理として楽であるかは、だれの目にも明らかでしょう。
また、今回の事故対応の中で、いやというほど縦割り行政の弊害を感じています。行政は縦に割らなければ仕事は進まないというのはよく分かりますが、大規模な原発事故に際し、行政の垣根を越えた横断的な協力を望むことはできないものでしょうか。
放射性物質が降り注いだ地域に住んでいた、あるいは現在も住んでいるという市民の生活と健康を第一に考えた除染業務となることを切に願っています。
ご清聴ありがとうございました。

【注記】
庄建技術㈱では、除染データ集を希望者に無料配布しています。
申込先:
FAX 0244-22-6889
masanori.takahasi☆syoken.co.jp ←☆を@に置き換えてください。
http://www.syoken.co.jp/


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