月1原発映画祭ニュースレター第4号
月1原発映画祭ニュースレター第4号
■今月のトピック「原発を止めた裁判官~その理由は~」
「・・・たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」(2014年5月福井地裁「大飯原発3、4号機運転差止請求訴訟」判決文より)
このような判決を書いた樋口英明裁判官はどんな人なのだろうと思っていたところ、2017年に定年退官された後、各地で講演をされていて、その動画が何本かYouTubeに公開されていることを知りました。直近のものではありませんが、音声や資料画像が一番鮮明と思われる、こちらの動画を紹介します。ぜひご覧ください。
●「樋口英明さん講演:原発の危険性に向き合う裁判官の責任」
主催:老朽原発40年廃炉訴訟市民の会 2019.5.11ウィンク愛知にて(約70分)
https://www.youtube.com/watch?v=0cbq7ac11FY
●レジュメと資料が公開されています。(上記講演時のものではありませんが、基本的な部分は同じです)手元に置くと講演がよりわかりやすくなります。特に「表1」は必見です。
「樋口英明氏の講演会『原発訴訟と裁判官の責任』レジュメです。他の人に原発の危険性を伝える手段としてご活用を‼」
(伊方原発をとめる会HPより 2019.5.29)
http://www.ikata-tomeru.jp/?p=9342
写真下の「190526 樋口英明氏松山講演レジュメ」部分をクリックすると資料が開きます。
●講演に出てきましたが資料のない事柄について、2点補足します。
補足1)想定した耐震基準を超えて原発を襲った5回の地震(44分ころに言及されている)
① 2005年 宮城県沖地震 ➡ 女川原発
② 2007年 能登半島地震 ➡ 志賀原発
③ 2007年 新潟県中越沖地震 ➡ 柏崎刈羽原発
④⑤ 2011年 東北地方太平洋沖地震 ➡ 福島第一原発・女川原発
(参考図書『原発に挑んだ裁判官』より)
補足2)原発を止めることのできる5つの組織、役職(65分ころに言及)
原子力規制委員会/内閣総理大臣/県知事/市町村/裁判所
講演動画については以上です。
●冒頭で紹介した判決の抜粋(要旨・主文の全文も)は、こちらで読むことができます。
http://adieunpp.com/download4link4/higuchpage/hanketsu_syubun.html
英・中・韓国語などにも翻訳されています。
http://adieunpp.com/download4link4/higuchpage/judgment_eng.html
(どちらも「福井から原発を止める裁判の会」HPより)
●しかし上記の判決は2018年にくつがえされてしまいます。樋口さんが関わったもうひとつの原発訴訟(高浜原発差し止め仮処分)と合わせて、簡単な年表にしました。
http://www.jtgt.info/?q=node/3095
(講演で言及された、山本善彦裁判長の訴訟についても入れました)
11年 | 3月 | 福島原発事故 |
12年 | 5月 | 泊原発が定期検査に入り、全国で稼働原発が0に |
7月 | 大飯原発3、4号機が再稼働 | |
11月 | 地元(と全国の)住民189人が関西電力を相手に「大飯原発運転差し止め」の訴えを福井地裁に起こし、樋口さんが担当の裁判長となる(他2名の裁判官とともに3名の合議体) | |
13年 | 7月 | 新規制基準が定められる |
9月 | 大飯原発3、4号機が定期検査に入る。 樋口さん「もし危険とわかったら再稼働前に差し止めの判決を出さねば、とスピード感を持って審理に臨んだ」 |
|
14年 | 5月 | 樋口さん、大飯原発運転差し止め判決を出す(普通は5年以上かかる判決を1年半で) ⇒ 関電が控訴 |
12月 | 樋口さん、高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分も担当となる | |
15年 | 4月 | 4月1日に名古屋家裁へ異動となるも、「職務代行」制度を使い、前任地・福井地裁で高浜原発運転差し止め仮処分判決を出すことができた |
12月 | 高浜原発運転差し止め仮処分取り消し(福井地裁 林裁判長) | |
16年 | 3月 | 高浜原発再稼働差し止め仮処分(大津地裁 山本裁判長) ⇒ 関電が高裁へ抗告 |
17年 | 3月 | 高浜原発再稼働差し止め仮処分取り消し(大阪地裁 山下裁判長) |
夏 | 樋口さん定年退官 | |
18年 | 7月 | 大飯原発運転差し止め認めず(名古屋高裁 金沢支部 内藤裁判長) |
20年 | 12月 | 大飯原発設置許可を取り消し(大阪地裁 森鍵裁判長) |
参考図書『原発に挑んだ裁判官』
脱原発弁護団全国連絡会HP http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/news/20-12-2/
より抜粋して小林まとめ
●福島の事故後、原発差止を認めた裁判はこれだけあります。(脱原発弁護団全国連絡会HP)
http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/news/20-12-2/
そして先月、大阪地裁が、大飯原発設置変更許可の取り消しを認めたのは記憶に新しいニュースです。
https://mainichi.jp/articles/20201204/k00/00m/040/145000c
●もちろん福島事故以前にも、各地で原発に関連するたくさんの裁判が行われていました。
ニュースレター第3号でもご紹介した資料ですが、反対運動についての記述の後に[付録]として【主な原発訴訟】についてわかりやすくまとめられています。
https://ch-gender.jp/wp/?page_id=10773
原子力発電所建設との闘い―立地反対運動と原発訴訟(比較ジェンダー史研究会/富永智津子【年表4】)
●月1原発映画祭では2020年1月、大飯原発のある、福井県おおい町に暮らす人々の暮らしや思いを丁寧に描いた『彼らの原発』を上映しました。
http://www.jtgt.info/?q=node/2565
樋口さんの講演を聞いて何より驚いたのは、耐震設計基準の話でした。本当に怖いです。この地震列島では一日も早く原発を0にしなくてはいけないと改めて思います。
樋口さんはインタビュー(参考図書内)で「専門訴訟ではない。良識と理性の問題だ」と語られています。原発は高度な技術で作られていて一般の市民は手も足も出ないと思ってしまいがちですが、私たちは普通の常識と感覚を持って「原発は要らない」と言い続けていいのだし、まわりにそれを伝え続けていかなければならないと思いました。
樋口さんの判決も高裁でくつがえされてしまったように、今まで裁判所が完全に原発を止め続けたことはありません。が、原発を運転する側の安全神話や矛盾が、判決ごとに少しずつ明らかにされ、原発反対の世論を喚起したり、次の訴訟に影響を与えたりして、原発の運転差し止めを求める原告側は、「負け」ながらも少しずつ「勝ち」続けているのではないかと思いました。 (文責:小林)
●参考図書の紹介
・『原発に挑んだ裁判官』 磯村健太郎・山口栄二 朝日新聞出版
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=21028
・『原発訴訟が社会を変える』 河合弘之 集英社
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0802-b/
■ 超ショートコラム「自分の言葉で答えよう」
~「原発ないと困るでしょ」って言われたら?~
原発の経済性は、すでに破綻しています。経済性のない未来にすがりつくのではなく、どんどん再生可能エネルギーを実行する時代にとうの昔に入っています。この舵の切り替えは、EU諸国などでは、先進的な取り組みがなされています。エネルギーが足らないという宣伝とともに日本政府が、ただただ原発を捨てられないだけ。「原発なし」ができないのではなく、やらないのです。みなさん騙されないでください。 (権上かおる)
◆ 「自分の言葉で答えよう」への回答募集
このコーナーへの投稿を募集します。
→200字以内、名前/ペンネーム、住んでいる地名などは投稿された方の任意とします。
お題:
「原発ないと困るでしょ」って言われたら?
「原発ゼロの主張は無責任」って言われたら?
投稿の原稿はメールでeigasai2021★jtgt.info宛にお送りください。←★を@に置きかえてください。
■ 1行ニュース
1.福島に家族で移住なら200万円支給…原発周辺12市町村対象に支援金(2020.12.13)
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20201212-OYT1T50304/?fbclid=IwAR1cUMy...
2.再稼働「環境整備」加速か 東商会頭ら、柏崎刈羽原発に(2020.12.15)
https://www.asahi.com/articles/ASNDG6VX8NDGUOHB001.html
3.寿都町に「核抜き条例」包囲網 核ごみ処分場応募に反発(2020.12.16)
https://www.asahi.com/articles/ASNDH7608NDHIIPE009.html
ニュースレター第2号に寿都町周辺自治体がわかる地図を追加しました。ご覧ください。
http://www.jtgt.info/sites/default/files/2020-12-09-1.pdf
4.日本、汚染水海洋放出の安全性広報に予算5億円策定(2020.12.16)中央日報日本語版
https://japanese.joins.com/JArticle/273440
5.青森・むつ市の核燃料貯蔵施設「共用」を検討、電事連が表明(2020.12.17)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/74881/
6.福島第一、高濃度の汚染部分が判明 廃炉工程見直しか(2020.12.29)
https://www.asahi.com/articles/ASNDY6J6SNDGULBJ013.html
■ 次回のニュースレター
次回のトピックは「電力会社乗り換えを考える」の予定です。
■ 月1原発映画の会
問い合わせ先 eigasai2021★jtgt.info ←★を@に置きかえてください。
http://www.jtgt.info/ (地域から未来をつくる・ひがし広場内)
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