2012年12月1日(土) 月1原発映画祭の報告

12.1の月1映画祭は「みえない雲」を昼・夜 上映させていただきました。
昼はお子さんもいらしたので日本語吹き替え版、夜は日本語字幕での上映としました。

「みえない雲」は、原発事故が実際に起きた際に生じるパニックとその際のふとした行動が思いもよらずその後の人生に重くのしかかってくるさまを、若者のラブストーリを織り交ぜつつ、ハイクオリティな映像演出でスピーディーかつ大迫力に描いています。主人公を含めたキャストの演技力も高く、私は映画の世界にグイグイ惹きこまれました。
 
今回のゲストは 原作の翻訳者の 高田ゆみこさんです。
映画の上映後は高田さんに30分間、お話をしていただきました。

☆高田ゆみ子さんのトークから☆(昼の部と夜の部のお話の内容を合わせてまとめました)

今回の福島事故が起こったことで、この映画で描かれていたことが現実になってしまった・・というのが、この映画に対する私の思いです。

この小説は25年前に書かれました。「原発事故の際に大変な被害を受けるのは子どもたち」ということをテーマに書かれた作品です。ドイツでは150万部のベストセラーで日本で言うと村上春樹級のベストセラーです。

映画は2006年に、チェルノブイリ事故の20年の節目ということで作られました。学校の授業にも用いられて広く鑑賞されています。

原作は「雲」という題名でしたが、原発事故の恐怖を的確に表現したくて邦題は「みえない雲」にしました。主役のパウラ・カレンベルクはでチェルノブイリ事故の起こった秋にドイツで生まれました。映画ではとても快活な役ですが、実は肺が片方しかないという障害を持っています。チェルノブイリ事故との関連性は証明されていませんが、彼女は日本での映画公開時に舞台挨拶で「母が妊娠している時にチェルノブイリ事故があったことが自分の障害にも関連しているのかもしれない。そういう自分が今回この役をやらせてもらうことになった事には不思議な縁を感じている」と語っていました。

私はこの本を訳した後、漠然と地震などの自然災害と原発事故が重なると非常に恐ろしいことが起こると思っていたのですが、翻訳した私自身でさえ現実味を持っていなかったということに、今回の福島事故で改めて気づかされました。

福島の原発事故後、3.11以後のドイツのことや原作者の発言を調べ始めました。

2011.6 ドイツは議会で国の方向性を脱原発と決めました。しかし、ドイツは一朝一夕
脱原発の考えになったのではありません。チェルノブイリ事故以降20年以上かけて、みどりの党などがきちんと政治に訴えかけ続けてきた結果です。
勘違いされやすいのですが、福島の原発事故以後、議会で脱原発が決定してもまだドイツでは原発が稼動しているのです。日本のように地震被害がないドイツでは即時停止ではなく原発はあと10年は稼動し続けることになっています。
しかし、チェルノブイリ事故以降、新規原発建設は0です。(日本は20機以上建設されました)ドイツではチェルノブイリ事故以降、ずっと脱原発に向けての動きがあったのです。

3.11以後ドイツでは原発の今後を考えるために「倫理委員会」が立ち上がり、聖職者、社会学者、哲学者などがみっちり2ヶ月討論し、一時的に負担がかかってもドイツは脱原発の方向に向かうという答申を出しそれが採用されたのです。

日本では311以降、倫理という言葉が日本の政治家から初めて聞けたのが、 嘉田由紀子さんからなんです。初めての国政選挙なのに原発を語らないのはおかしいと。経済性だけでは原子力政策を推進する事は国家としての品格を失い地球倫理上許されないとおっしゃっている。私はそれにとても共感しています。

ドイツの脱原発への詳しい経緯は
「なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力四〇年戦争の真実」日経BP社
を読んでいただくとよく分かります。

日本との大きな違いは、ドイツはゴールを決めたことだと思います。ゲーテの言葉にも「目標を定めずに人は遠くまでいけるものではない」というものがあります。

ドイツでは経済産業界は国が決めたら、それに合わせて方向転換しようということで、すでに2011.7以降、産業構造転換を図り38万人の新雇用を生み出しました。
世界的有名なコングロマリットのシーメンスも原発事業からは完全撤退することに決まっています。

日本ではもっと子どもに原子力のことを考える場所を作ってもらいたいと考えていますが、なかなかそういう機会がありません。去年文科省から出された、原子力に関する教材の副読本は正に「服毒本」です。(笑)

■文科省の放射線等に関する副読本
http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/detail/1311072.htm

⇒こちらと比較ください。
「放射能と被爆の問題を考えるための副読本」福島大学 放射線副読本研究会
https://www.ad.ipc.fukushima-u.ac.jp/~a067/FGF/FukushimaUniv_RadiationTe...

最後に今回のカンパ先※についてご説明させていただきます。
※月1原発映画祭では交流カフェに参加者の皆さまから寄せられたカンパから経費を差し引いて、ゲスト指定の団体等にカンパさせていただいています。今回は福島県白河市にあるアウシュヴィッツ平和博物館が設立する「原発災害情報センター」にカンパいたします。
http://www.am-j.or.jp/schedule/120906.htm

私は、「みえない雲」の著者、パウゼヴァングが書いた「そこに僕らは居合わせた-語り伝える、ナチス・ドイツ下の記憶」という小説を読んでとても衝撃を受け、翻訳し今年7月に出版しました。著者はナチス・ドイツ下の教育を受けていて、ヒトラーが死んだ時には涙を流したそうです。状況的にそうならざるをえませんでした。本書の冒頭のお話では、主人公の少女の家の近所にユダヤ人一家が住んでおり、ある日連行されてしまいます。近所のドイツ人がその家に入って行って毛皮や家具をみんな持って行く。少女の母は子どもを4人その家に連れて行き、まだ暖かい残されたスープを食べさせる・・・。戦時中子どもに食べさせるのは本当に大変な事だったでしょう。しかし逆の立場であれば恐ろしい話です。人間の立場の違い、強さ、弱さについて書かれた小説集です。ナチスの連行シーンも何も出て来ないですが、とても怖い話です。そういった縁から今回は、私は福島県白河のアウシュビッツ平和博物館の「福島原発災害情報センター」の建設についてカンパをお願いしたいと思っております。

著者は今83歳なんですが、彼女が言った、私は言うこと言ってから死ぬぞ、 「人生終盤勇敢じゃなくちゃね」ということばは今世紀の名言だと思っています。


昼の部の参加レポートです。

12月に入り寒く天気もよくない中、十数名の方にご参加いただきました。お子さん連れの方もいらっしゃって皆さんじっと映画に引きこまれていました。
会場からの質問コーナでは面白い質問がいくつもでました。最後には、甘酒もでて心も体もあたたまっていただけたのではないでしょうか。

会場からの質問と高田ゆみ子さんの回答です。

Q:主人公のBFの名前が変な名前とからかわれていましたが、よくわかりませんでした。
日本人の感覚でいうとどういう感覚なのでしょうか。

A:「エルマー」という名前ですが、有名な「エルマーの冒険」という本があります。
現在でいうと有名な本の主人公の名前で、古臭く日本で言うと○○べい というようなイメージのようです。

Q:主人公が入院している病院が隔離病棟のような扱いで、被爆者から被爆するという設定になっていましたが、ちょっと感覚がわかりませんでした。どういうことなのでしょうか。

A:実はこの原作は広島や長崎の被爆者をイメージして書かれたらしいのですが、広島・長崎等の被爆者の被爆量ではそういった事実はもちろんありませんし、おそらくこの映画の主人公の被爆量ではそういったことはありえないでしょう。この映画の事故の程度が不明ですし、主人公の被爆レベルも不明なままなのでなんともいえないのですが誤解をしてほしくない点ではあります。

Q:ドイツの授業でよく使われているということでしたが、ドイツではそういう授業ができるというのは、賛成派 反対派がいるということを凌駕して話し合いができる状況があるということですか?

A:授業自体は賛成 反対 どちらかに基づいたものを呼びかけるものではありませんし、客観的に伝えるということに注意しています。

最後に、昼の部 会場に来ていらした菅間さんからのアナウンスです。
「私が今取り組んでいる『子どもと学ぶ歴史教科書の会』の紹介をさせていただきます。
URL http://manabisha.com/
現行の歴史教科書にはない、子どもが次のページをめくってみたくなる、続きを読みたくなる、読んだことで問いや討論が生まれる教科書をつくりたい、という気持ちからこの会を発足させました。戦争についてや沖縄の問題について今の教科書は十分に表せているとはいえないと考えています。内容は比較的リベラルな教科書といわれるのかもしれませんが、何かに対抗して・・ということではなく、あくまで子どもが興味を持って楽しく学べることを中心に考えています。ぜひ一度HPにいらしてください」


夜の部の参加レポートです。

参加者はスタッフを含めて30人あまり、初めての方は7~8人で、今回はリピーターの方々のほうがちょっと多かったようです(その時々で比率はいろいろですが、リピーターの方々がいらっしゃるのは嬉しいことです)。
高田さんにお話をしていただく前にワインとハーブティで乾杯して、雑談からスタート、なごやかな交流カフェとなりました。

夜の部の映画・カフェ参加者の感想・ご意見です。

1.
「アンダーコントロール」http://www.youtube.com/watch?v=4E93g_KUP7U
というドキュメンタリー映画を思い出しました。特に印象に残っているのは原発の跡地を遊園地にした場面です。白河にあるアウシュビッツ平和博物館の横に原発事故の記念館をつくるべきではないでしょうか。アウシュビッツはビジネスであった。東電もあくまでもビジネスとしているところから福島とアウシュビッツは繋がっていると思います。

2.
福島から避難している家族の支援をしています。多くの人は物資を入手するため店に並んでいた時、黒い雲を目撃している。この映画を見た時、黒い雲を知っていただけドイツの方はましだな、と思いました。東電は事故後福島の人達には避難を告知せず自分達の家族だけを逃がしています。怒りが込み上げます。
自分も社会の教員をやっています。日本で倫理と言われるとピンとこないですけど、倫理には人間が何をすべきかという根本があります。この根本の議論が日本ではない。まず議論できる状況が大事で、それができてこそ違う結論に繋がると思います。
東電の社員は各地で開いた会議で一方的に原発が必要といってその後の議論はなかったですよね。この状況を変えられたら、という思いから今活動をしています。

3.
映画の感想は2006年であれだけ作ったのはすごいなあと。講談師の神田香織が「チェルノブイリの祈り」という講談をしています。http://www.youtube.com/watch?v=CiBXCD1_cI0
映像では見せられないものも言葉ではいかようにも表現でき、パワーがあります。ぜひ機会があったら聞いていただきたい。

4.
1980年代後半に娘がウィーンに住んでいた事があります。そのころヨーロッパでは脱原発運動がさかんで、今の日本の状況と当時のウィーンの様子が重なります。現在は放射能を逃れ、赤羽に移りました。残してきた家に戻り荒れ果てた庭を見ると、福島の様子と同じで映画の風景と重なります。孫達は半分海外にいますが、今できる事はなんだろう、と死ぬ前に自分ができる事を考えています。

5.
地元の小学校で、校長にかけあって毎年空襲や戦争体験の授業をしている方がいらっしゃいます。この月1映画祭にも時々参加してくださっている元理科教師の方。先日初めて聴講しましたが、素晴らしい授業で、聴いている6年生の子どもたちもびっくりするほど真剣でした。

■参加者アンケート
・2006年で若い主人公ややんちゃな青年たちまでが、黒い雲や雨、風向きの事情を理解できている国柄に驚きました。広島で被爆をした人を愛して結婚した人を思い出しました。
・ 子どもがもう少し大きくなったら見せたいです。
・ドイツが脱原発への方向を示した経緯が(上映会終了後の)話し合いの中で理解できました。
・ 警告・警鐘としても大変すぐれた映画でした。子どもが主人公なのがよいですね。
・ 3.11以前なら物語としてみて流していたと思う。今は「あの日の出来事」として見させていただきました。映画の中でもドイツと日本の違い「原発についての知識」などあることはすごいと思いつつ、日本はこのまま雲の中に入ってしまうのかと不安に感じました。

[今回の参考にしてほしい本]
・そこに僕らは居合わせた 語り伝える、ナチス・ドイツ下の記憶 みすず書房
・みえない雲 小学館文庫
・コミック みえない雲 小学館文庫
・なぜメルケルは「転向」したのか ドイツ原子力四〇年戦争の真実  日経BP社
・ドイツは脱原発を選んだ 岩波ブックレット

*今回、交流カフェのカンパから経費を差し引いた合計は9238円でした。ありがとうございました。「原発災害情報センター」設立にカンパします。
http://www.am-j.or.jp/schedule/120906.htm

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