月1原発映画祭ニュースレター第9号

■ 今月のトピック「処理汚染水 海洋放出ではない処分方法」

前号に続き、福島第一原発処理汚染水の海洋放出についてお届けします。今回は、海洋放出ではない処分方法について、どんな提案があるかをまとめてみました。
(前号の記事はこちら http://www.jtgt.info/?q=node/3272

◆2018年8月に「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会」が福島県で2回、東京で1回、開かれていました。

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/taka...
この公聴会参加者の「意見当日表明する意見の概要」から、処分方法についての意見を抜き出してみると、次のような意見がありました。(①②については、後で詳細を示します)

・20万トンタンカーに移して放射性物質減衰を待つ
・メガフロートで他の東電敷地に運ぶ
・微生物群(EM)によるトリチウムの除去について、実証実験している(EM 研究機構)
・浄水場などで採用している高分子凝集沈殿処理法で汚染水を処理し、トリチウムは残るが、乾燥工程によりトリチウム入り汚泥にして、小面積で保管可能
・山側からの流入地下水をセメント注入工法で止める
・国際的協力をつのる 
・水素化マグネシウムに転換して保管
・パイプによって福島第二原発の敷地に送り、そこで数十年間の保管
・トリチウム汚染水からトリチウムを分離する方法は現在様々研究されている。(重さで分離、融点で分離、フィルターで分離など)→①
・石油備蓄などに使われる大型タンクに貯蔵して放射性物質の減衰を待つ。セメントと砂でモルタル固化して半地下で保管。汚染水をこれ以上増やさないために、原子炉を水で冷やすのではなく、空冷化にする。40年で廃炉という行程を見直す(原子力市民委員会) →②

◆2019年12月、経産省の委員会が出した資料には、これらの意見に対する回答や、5つの処分方法にしぼって検討した経緯などが書かれています。

・多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 (第16回)資料4 
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/taka...
P.2~3 5つの処分方法「地層注入」「海洋放出」「水蒸気放出」「水素放出」「地下埋設」を説明
P.8~9 「(3)タンク保管容量の拡大について (4)タンク保管の継続について」で、上記公聴会で出た意見への否定的な回答
P.13 トリチウム分離技術についての回答「ただちに実用化はできない」
P.18~20 5つの処分方法から「海洋放出」「水蒸気放出」にしぼった経緯

◆2020年4~10月には、「関係者のご意見を伺う場」が7回と、「書面によるご意見の募集(パブコメ)」が行われました。

・多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場 及び 書面による御意見の募集について
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/taka...
「御意見を伺う場」の議事録はこの中に紹介されており、前出公聴会時と同様に提案がいくつもなされています。

「パブコメ」(提出数4011件)については以下に結果が公開されています。
・多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集の結果について(2021/4/13)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000218009

◆そして2021年4月唐突に、政府は「薄めて海洋放出」の方針を決定しました。原子力規制委員会委員長も「海洋放出は、ほとんど唯一の選択肢」と言っていますが、本当にそうなのでしょうか? ほかの処分方法について探ってみました。

●前出① 汚染水からトリチウムを分離する技術について

・近畿大学:汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発 東日本大震災の復興支援プロジェクトから生まれた汚染水対策(2018/6/27)
https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2018/06/012947.html

2020年10月にトリチウムを分離する技術は、読売テレビで放映されました。次のページに放映内容や、近畿大学原子力研究所の山西弘城所長へのインタビューが記載されています。

・読売テレビ:【特集】2022年夏に“期限“「先送りできない」福島第一原発「処理水」問題 放射性物質トリチウム除去の新技術から見える問題の“本質“とは
https://www.ytv.co.jp/wakeup/specials/archive/page_4dkouh8h057wk687.html

政府の検討会議は2015年当時の技術を元に処理汚染水の処分方法を検討しています。その後に開発されたこのような優れた技術が検討の候補にも登らないのは、政府の検討はお粗末と言えるでしょう。
東京新聞「こちら特報部」(2021/4/14付)で、「近畿大が更なる研究のために政府系の補助金を申請したが審査を通らなかったこと、福島第一原発敷地内で試験が行えないかを東電に打診したが許可されなかったこと」が報道されました。

●前出②「大型タンク貯留」または「モルタル固化」し、合わせて「原子炉を空冷化し、廃炉行程は見直す」

技術者や研究者も参加する「原子力市民委員会」による提案です。
「大型タンク貯留案」とは・・・ドーム型屋根、水封ベント付きの大型タンクを建設。建設場所としては、福島第一原発敷地内の7・8号機建設予定地や、土捨て場など。大型タンクは石油備蓄などに使われており、多くの実績をもつ。ドーム型屋根を採用すれば、 雨水混入の心配はない。防液堤も設置する。
「モルタル固化処分案」とは・・・アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた実績がある。処理汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管する。

・原子力市民委員会(CCNE)連続ウェビナー 第1回(2020/10/22)
「福島第一汚染水の海洋放出は避けられる 再考すべき現実的な選択肢」
http://www.ccnejapan.com/?p=11570
処分方法について、40:00あたりから「現実的な選択肢~大型タンクによる保管継続とモルタル固化案について」(川井康郎氏)で詳しく説明されています。
資料はこちら http://www.ccnejapan.com/wp-content/2020-10-22_CCNE_Kawai.pdf 

なお、この動画は「デブリ取り出しを前提とした廃炉ロードマップの虚構性を追及する」シリーズの1回目で、2回目以降の動画もこちらから見ることができます。
http://www.ccnejapan.com/?page_id=11636

FoE Japan(2021/4/13の声明)によれば、「ALPS小委員会の報告書には、東電が一方的に、大型タンク保管案を否定する見解のみが記され、また、一度たりとも、提案を行った原子力市民委員会に対するヒアリングや議論等は実施されなかった」とのことです。

●事故原発の周囲に堀を作り、地下水などが流入しない「乾いた島」にして減衰を待つ案

(元原子力技術者の佐藤暁氏)

・東京新聞:福島第一廃炉「乾いた島」構想、デブリ除去先送り 専門家提案(2021/5/2)
https://bit.ly/3v2Xbl9

記事の最後に「提案したが採用されていない」と書かれています。

●建屋外壁部の完全止水により、新規汚染水発生を防止(山本拓 自民党衆議院議員)

・山本拓公式HP:菅内閣総理大臣が決断した2年後の海洋放出よりも、2年以内の建屋外壁部の完全止水工事を完了させることが国民にとって一番得策です!(2021/4/28)
http://yamamototaku.jp/article/shisui/

詳しい情報は、こちらの動画と資料にあります。
・【動画・報告書・公開資料】第2回『自民党 東京電力福島第一原子力発電所処理水等政策勉強会』(2021/5/17公開)
http://yamamototaku.jp/article/20210513houkoku/

山本氏は福井県選出議員で、原子力推進派を公言しています。「今後も原子力が必要と思うからこそ、福島事故の後始末をガラス張りでしっかり進めなければ、国民は原子力の利用に納得しない」と発言しています。これからも原発を使い続けるという山本議員の主張にはまったく賛成できませんが、経産省や東電に物申す姿勢は本物だと思いました。自民党の中から出てきた提案に政府はどう対応するのでしょうか。

*以上、キャッチすることのできた処分方法を列挙してみました。
共通するのはまず、これ以上汚染水を増やさない(空冷化にしろ、水冷化にしろ、山側からの地下水を遮断して閉じた空間で冷やし続ける)ことだと思います。すでにたまっている処理汚染水については、トリチウムの半減期が12年と比較的短いことも踏まえ、安全に保管減衰させたり、分離して量を減らしたりできるのではないでしょうか。政府は処理汚染水の海洋放出を撤回し、国内外、研究者、技術者、企業などの知見を柔軟に取り入れて検討するべきで、いくつかの方法を組み合わせることもできると思います。
これからも、汚染水問題だけでなく事故原発の後始末について(廃炉とは何かということも含め)関心を持ち続けていこうと思います。(文責:小林)

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■ 一行ニュース

・OurPlanet-TV:学校の「同意書」回収打ち切り〜福島県甲状腺検査(2021/5/14)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2569

・Newsweek日本版:チェルノブイリで再び核反応くすぶる 中性子線量が上昇中(2021/5/21)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/post-96333_1.php

・読売新聞:関電美浜原発3号機、6月23日に再稼働の見通し…国内初の40年超運転に(2021/5/21)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210521-OYT1T50232/

・朝日新聞:原発「建て替え・新増設を」 エネ計画改定に自民提言案(2021/5/25)
https://www.asahi.com/articles/ASP5T6GZ8P5TULFA00K.html

・朝日新聞:再生エネ新市場、11月にも試験運用 脱炭素を支援(2021/5/31)
https://www.asahi.com/articles/ASP5Z76BHP5XULFA03K.html?iref=comtop_7_06

■ インフォメーション

・新たな「原発いらない金曜行動」が始まります!
首相官邸前 6月18日(金)18時30分より19時45分(毎月第3金曜日)
ぜひご参加下さい。 主催:(仮名)「原発いらない金曜行動」実行委員会
http://www.labornetjp.org/news/2021/1622125209931staff01

・安倍晋三前首相の政権を検証する映画『2887』の完成記念試写会、6月21日(月)憲政記念館にて
https://www.2887web.com/ (下部に申し込み方法あります)

■ 次回のニュースレター

次回は「エネルギーの民主化」について扱う予定です。
*ニュースレターのバックナンバーはこちらから
http://www.jtgt.info/?q=taxonomy/term/21

■ 月1原発映画の会

問い合わせ先 eigasai2021★jtgt.info ←★を@に置きかえてください。
http://www.jtgt.info/ (地域から未来をつくる・ひがし広場内)

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