日本学術会議任命拒否問題に関する声明

日本学術会議任命拒否問題に関する声明
https://nancis.org/2020/10/13/scj-statement/

2020年10月13日
市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)

 さる10月1日、日本学術会議が新会員として推薦した105名の研究者のう
ち6名が、菅義偉首相により任命されなかったことが明らかになった。すでに多
くの法律家、学識者、学術団体が指摘しているように、このことは日本学術会議
法(以下、同法)が規定する日本学術会議の趣旨、独立性、自律性を大きく損な
い、かつての研究者による公選制から推薦に基づく任命制に改められた際の「形
式的任命にすぎない」(1983年5月12日、参院文教委員会における中曽根
康弘首相答弁)との政府解釈を踏み越える不当なものと言わざるを得ない。日本
国憲法第23条が保障する「学問の自由」は研究者個々人の学術研究の自由のみ
ならず、学術界全体の権力からの自由によって達成されるものであり、それを支
える大学、研究機関、学会や科学アカデミーなどの学術団体の自治が幾多の苦難
や努力により、伝統的・国際的に確立されてきたことからも、その重要性は明ら
かである。日本政府および菅義偉首相は、6名の任命拒否に至った経緯および理
由を明確にするとともに、任命拒否の決定を改め、日本学術会議からの推薦どお
り6名の任命を行うべきである。

 この問題に際し、菅義偉首相は10月5日に内閣記者会の幹事3社のみによる
「グループインタビュー」に応じただけであり、その発言も「法律に基づいた任
命をしている」「個別の人事に関することはコメントを控える」など理由を明確
にしない一方、同法に定められた推薦制と日本学術会議による具体的な運用を
「前例を踏襲してよいのか、考えてきた」と断じ、首相の任命権を通じて人事や
運営に介入する意図をほのめかしている。こうした、理由を曖昧にしながら権力
の行使や濫用をちらつかせたり実際に行うやり方は、当事者(今回は研究者や学
術界)による反駁や抵抗の機会や効力を挫き、権力に対する必要以上の不安を生
じさせ、萎縮や忖度を生んで自由を奪い、権力への追従をもたらすことにつなが
る。さらに今回、マスメディアやインターネット上で、ワイドショーのコメンテー
ターや匿名のネットユーザーだけでなく、一部のジャーナリストや学識者、著名
人までが、ウソや誤解に基づく情報や問題の核心を意図的に逸らす論評を流布し、
意図的に当事者を貶める言論状況をもたらしている。こうした政治・社会状況は、
本会を構成する国際協力NGOが、開発独裁や権威主義体制を取る諸外国で体験し
てきたケースと酷似しており、単に一学術団体への政府の介入強化にとどまらず、
研究者や学術界全体の「学問の自由」が奪われ、政府への協力を強いられる状況
への「序曲」となることを強く恐れる。

 さらに、この問題は研究者や学術界にとどまるものではなく、広く「市民社会
スペース」(=市民やNGO/NPO等が自由に表現、言論、活動できる社会スペース)
の自由を脅かすものでもある。市民社会スペースの自由闊達な表現、言論、活動
は、研究者の知見や研究者との協働によって根拠と実力を備え、社会的な影響力
を増してきた。さらに、一般市民が権力に対峙する言論・活動をするとき、研究
者の専門性と良心に基づく発言や行動は、権力に対する盾となり、一般市民を守
り、勇気を与えてきた。このように、良識ある研究者や学術界の存在や言動は、
市民社会スペースを守り、耕し、背骨を通す役割を果たすものである。それゆえ
に、研究者や学術界の自由が失われるとき、市民社会スペースの自由もまた脅か
され、萎縮への道をたどらざるをえない。

 このようなことから、本会はこの問題を座視することなく、学問の自由、ひい
ては市民社会スペースの自由を脅かす危機の「一里塚」であると捉え、先の政府
決定の明確な説明と、その撤回を求めるとともに、問題意識を共有する社会各層
との連帯を強めていくものである。

以 上

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