2013年2月2日(土) 「フクシマからの風」「田神有楽」~津軽から加藤鉄監督を迎えて~ 第10回月1原発映画祭のご報告

「フクシマからの風」「田神有楽」~津軽から加藤鉄監督を迎えて~
                       (第10回 月1原発映画祭のご報告)

2月2日(土)10回目となる月1原発映画祭では、青森県より加藤鉄監督をお迎えして、昼の部「フクシマからの風」 夜の部「田神有楽」を上映しました。

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この日は気温が20度近くまであがり、春が来たかのよう。谷中の家に到着される皆さんの第一声も「今日は暖かいですね」でした。

昼の部は1:30から始まりました。監督の短い挨拶のあと25名ほどの参加者で「フクシマからの風」http://fukushima.xrea.jp/ を見ました。

この映画は、福島県飯館村と川内村で、原発事故後も村に残り山野の自然とつながった暮らしを続ける人々を、淡々と描いていきます。
裏山で山菜や薬草を研究する84歳の昌基さん。奥さんとのやりとりが、なんとも温かくて面白い。
双葉町の病院にいた奥さんを亡くしたばかりの常次さんは、どぶろく造りの名人。水場から離れて産みつけられたモリアオガエルの卵を移動させてあげるその優しさ。
獏原人村で70年代から仲間と自給自足の生活をしていたマサイさんは、ニワトリを飼い、
太陽光発電で暮らす。「自分自身が変わらなければ、何も変わらないじゃん」と私たちに鋭く問いかけます。

画面のなかではゆっくりと時間が流れ、夏の日差しと緑があふれています。登場する方々はカメラを意識することなく、日常の生活をそのまま私たちに見せてくれます。静かな映画なのですが、それぞれの方々の暮らしには、そこはかとないユーモアが感じられて笑いを誘われる場面も多く、原発事故後の映画を見ているのだということを忘れてしまいそうになりました。
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1時間20分の上映のあと、休憩と部屋の模様替えをして、カフェの時間になりました。
常連参加者の方がさしいれてくださった稲荷寿司をいただきながら、まずは加藤監督からこの映画を作ったいきさつなどを話していただきました。
以下、監督のお話です。

2011年2月から、六ヶ所村で撮影される映画の手伝いを始めていました。そこに3.11の地震が起きました。4月の終わりに、その映画の監督を含め3名で、2泊3日で福島県に取材に行くことになりましたが、私は当初福島に入ることに抵抗がありました。しかし獏原人村には以前から関心があったので、マサイさんに会いに行くことを目的に、福島に行く決心をしました。
線量計を持って東京から向かっていくと、数値がだんだん上がっていきます。まだ放射能についての情報が少ない頃で、飯館村や川内村で若い方や子どもたちにも会いました。
青森に戻ってから「福島のことを映画にしてみたら」と言われたのですが、悲惨な場所でカメラをまわすことに当初はためらっていました。ただ、2泊3日の間に出会った人々の中で、なぜか興味を惹かれた方、もう一度話を聞いてみたいと思った方々がいました。その方々に会いに行くことで、この映画ができたのです。2011年の春から夏にかけて撮影し、10月の末に完成しました。
前作から10年のブランクがあり、変なものを作っているのではないかと不安になった時もありましたが、作品の形が見えてくると、これしかないと思うようになりました。
ここに登場する人々になぜ惹かれたのか・・・あとになって考えてみると、山野の自然の中に自分の生き方を見つけていった、お金というものにとらわれずに自分の生き方を選んだ、という共通点があるように思います。

続いて、監督と共にいらして下さった中川登三男プロデューサーにもお話を伺いました。

加藤監督とは、前作「田神有楽」で知り合いました。「田神有楽」は六ヶ所村の農家、小泉金吾さんの3年間を追ったものですが、加藤さんはこの映画を撮るため、東京での生活を捨ててしまいました。私はそんな加藤さんの生き方に惹かれています。「フクシマからの風」を見たひとりひとりが「生きるということ」について考えてもらえたら嬉しいです。

ここで参加者の皆さんから映画の感想をつのりました。会場には、監督の大学時代の友人の方や、福島県双葉町から都内に避難されている方など、いろいろな方がいらっしゃいました。いくつかのご意見を紹介します。

・「反原発」という意味では甘い映画かと思う。「お金ではない生き方」を描きたかったのだろうが、焦点がぼけたのではないか。
・いつ撮影したのか、などの情報がなく、不親切なドキュメンタリー

という辛口のご意見に対して

・これは名前も知らない農民の生き方を描いた映画だと思う。農業を継がず都会に出てきた自分にとって、心に残るものだった。
・その場所に生きている人の生活の呼吸を感じた。そこでなければ生きられない人たちを、原発事故は土地から切り離したのだ
・映画「ナージャの村」や「アレクセイの泉」を思い出した。画面には映らない放射能と、そこで淡々と生活している方の思いを感じた

という感想。

そして実際に事故で避難された方からは、どう行動したらよいのかという情報が何もない中、避難所や車中を転々としながら今の借り上げ住宅に入るまでの様子が語られ、参加者の皆さんはしんとなってお話に聞き入っていました。
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1時間ほどの交流カフェは、4:30におひらきとなりました。会場をまた上映会形式に変えて、5:30からは夜の部。今回も25名ほどの方が集まって、2002年の長編記録映画「田(でん)神(しん)有楽(ゆうがく)」http://www.minipara.com/movies2002-4th/denshin/
を見ました。そのうち10名ほどの方は昼の部から続けての参加です。

「田神有楽」は1995年4月にフランスから高レベル放射性廃棄物が初めて青森県六ヶ所村に搬入されてからの3年半の記録です。廃棄物搬入の様子や反対運動を続ける村の人々を記録する一方で、ただひとり土地を売らずに米を作り続け、神社を守る、小泉金吾さんの姿を丹念に追っていきます。
「ナ(お前)沼の神になれ ワ(俺)田の神になる その気持ちでよ やるべし」
稲を刈り取り、束にして縛り、肩に背負っては積み上げる。繰り返す動作の美しさは、後半で見せてくれる神楽の舞いに繋がっていきます。
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2時間近い上映の後は、チーズ・フォンデュでカフェタイムです。今回はフォンデュ用鍋がしっかり置けるように、いつもよりテーブルに工夫をこらしました。ローストビーフと日本酒のさしいれもあり、豪華なカフェとなりました。
乾杯の後、監督に「田神有楽」についてお話しいただきました。

この映画を作ることになったきっかけは、一度自分の目で見てみたいと思っていた六ヶ所村を94年に訪れたことでした。
「土地を売ろうとしない話好きなおじいさん」がいるというので訪ねたところ、そのおじいさんは夕方まで延々と話し続けました。目をつりあげ髪を逆立てて、怒鳴りまくっていました。強い感情を持っている(都会では見かけることのない)その姿に強烈な印象を受け、もっと話を聞きたいと思いました。おじいさん、つまり小泉金吾さんと、放射性廃棄物に揺れる村を、記録に残したいと思いました。
小泉さんは「3年間俺につき合う気はあるか?」と言いました。後で考えればそれは、僕の覚悟を試す言葉だったのでしょうが、僕は本当に3年間を小泉さんと過ごしました。
小泉さんは2010年7月に亡くなりました。小学校しか出ていないのに、社会の問題に深い関心を持っていた小泉さんは、僕の師匠であり、今も僕の腹の底に生きています。

続いて、中川プロデューサーからもひとこといただきました。中川さんは青森県三沢市の出身で、六ヶ所村での市民運動にずっと関わってこられたそうです。村長選では「核燃料サイクル施設」に反対する候補が、推進派の候補に毎回負け続けてきたことなどを、時代を追って話してくださいました。

小泉金吾さんの戦い方は、自分の土地で生き続けるという戦い方でした。政治的に勝つとか負けるではなく、そこに生き続けるということで、私たちに問いかけています。映画を見たひとりひとりがそれをどう受け取るかということだと思います。

続いて、会場から感想をつのりました。

参加者: 同じタイトルの小説があったと思うのですが・・・
監督: 一字違うのですが、藤枝静男の「田紳有楽」という小説があります。小説の内容は想像したものと違ったのですが、タイトルはずっと気になっていてそこからつけました。「田の神に楽しみ有り」という感じです。

参加者: 小泉さんだけを追う映画にしてもよかったのでは?
監督: 村の記録を横糸に、小泉さんの生き方を縦糸にして作りました。村の様子や出来事も、背景とはいえきちんと描きたかったので、このような形になりました。

参加者: 「フクシマからの風」「田神有楽」両方見せていただきました。私は「フクシマからの風」が好きです。「田神有楽」は監督の目線が外からのものという感じがして、小泉さんを美化している印象も受けました。
監督: 確かに「田神有楽」は小泉さんに迫ろう迫ろうとして撮ったかもしれません。「フクシマからの風」を撮るときは、素直に自分がすっとその中に入れた感じがしました。

参加者: 以前はフィクションを撮っていたのが、ドキュメンタリーを撮るようになったということですが、フィクションとドキュメンタリーの違いなどを教えてください。
監督: フィクションの時は、作ったシナリオに役者を当てはめて撮るわけですが、そこには何らかの無理があり、いつも不満が残ってしまっていました。その後、「ただひとたびの人」というセミ・ドキュメンタリーを撮りました。大筋のシナリオはあっても、役者さんたちが自由にアドリブを入れていくことで、作品が生き生きとしてきました。それから小泉さんに出会って、ドキュメンタリーを撮ったわけです。僕自身の変化として「自分というもの」がだんだんなくなっていき、相手を生かすことに満足感を覚えるようになっていった感じです。

参加者: 「田神有楽」は内容が深く、「フクシマからの風」は映画として完成度が高い。次は両方を合わせた更に良い映画を撮ってください。期待しています。

中川プロデューサー: いろいろなご意見・ご感想が聞けて嬉しいです。どんな感じ方もありだと思います。感じ方の違いを認め合えることこそ、大切ですね。

その他、被災した方に気持ちだけ寄り添うのではなく、消費者として支援できることはないかという参加者の提案には、監督から、獏原人村のマサイさんの卵は買い手を探していると思う、とのお返事をもらいました。

今回のカフェでは、昼・夜共に、上映作品に対する忌憚ないご意見が出されました。監督と共にこれだけ語り合えたことは、今までになかったように思います。中川さんも言われていたように、お互いの感じ方を認め合える場ができていたのだと思います。そんな雰囲気を作り出してくださったのは、加藤監督のお人柄だったのでしょう。加藤監督、遠くからいらしていただき、本当にありがとうございました。
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夜の部のカフェは時間を延長して9:00過ぎに終了となりました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。いただいたアンケートから少し紹介させていただきます。

「フクシマからの風」について
・奥ゆかしい抑えた表現から何を読み取るか、試されている気がしました。
・加藤さんが農業をする生活があって、今回の映画の人々の生活を映像に切り取れたと思う。生活を撮る、そこで生きる人を撮ることが社会を撮ることだと思う。
・長回しなのでゆったりおちついてみることが出来た。風に吹かれる草や木が生きているようで美しかった。

「田神有楽」について
・六ヶ所村は原発問題の本質です。監督には是非この続編「今の六ヶ所村」を作って欲しい。
・ナレーションを使わず字幕を入れているスタイルは、下北の自然を重視した画面構成が損なわれないよい方法でした。前半は「動」後半は「静」という流れはありますが、人間の対立を描く場面はマイルドに小泉さんの生き様はヴィヴィッドに描かれたのは、おそらく加藤監督の人柄の現れだと感じました。

交流カフェについて
・福島からいらした女性の話は感動しました。
・監督のお話から、作品を取り出す産みの苦しみのようなものを感じて親近感を感じました
・色々な参加者がおのおの貴重な背景、情報、見解を持っていて、一方的な講演会よりもはるかに有益だ。
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カフェの中で、皆さんからいただいた情報をまとめて紹介します。
・北区西ヶ原の出版社・一葉社の大道さんより、新刊の紹介がありました。
『非原発』 東京新聞「こちら特報部」編著 3800円+税
『今こそ〈暗闇の思想〉を』 小出裕章著 1000円+税
問い合わせは、一葉社 Tel 03-3949-3492 ichiyosha★ybb.ne.jp ←★を@に読み替えてください。
また、既刊『女川 佐々木写真館』の著者・鈴木真弓さんが、NHKグランジュテに登場します。(2月16日放送予定)

・映画上映会「シェーナウの想い」+ 電力自給自足主婦・藤井智佳子さんのお話
2月11日(祝)14:00~16:30 高井戸地域区民センター 第2集会室 資料代500円
主催:出前エコ会議 問い合わせ demaeecokaigi★gmail.com 080-5441-8199 ←★を@に読み替えてください。

・働く女性の「グループ23」が、福島県へのバスハイクの参加者を募集しています。
2月23日(土)~24日(日)バス代・宿泊代はグループ23が負担(定員あり)
主な予定(変更の可能性があります)
 23日(土) 午前8時30分 明治大学駿河台校舎(お茶の水)集合 
        午後 郡山着 原発いらない福島の女たちと交流 
               原発労働者支援団体と学習会   
        夜  三春町泊
 24日(日) 午前 福島の女たちと交流  県内をバスハイク
        夕方 都内解散
申込み・問い合わせ グループ23 事務局
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1明治大学研究棟524平川研究室内
Fax 03-3296-2024   E-mail group23women★live.jp ←★を@に読み替えてください。
(なお、働く女性でなくても参加できるそうです)
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加藤鉄監督のDVDや書籍を手に入れたい方は、「フクシマからの風」HPの最新情報のページ
http://fukushima.xrea.jp/news をご参照ください。
『聞き書き 小泉金吾 われ一粒の籾なれど』 東風舎出版(2007.3)は、スタッフお奨めの1冊です。

第11回の月1映画祭は
3月2日(土)14:00~17:00 
「福島の子どもたちの現在(いま)、そして未来(これから)
 ~福島に生きる人びとと手を携え、共に歩くために~」と題し、
福島在住のジャーナリスト・藍原寛子さんをゲストに迎え、取材映像を交えてお話いただきます。
また第12回は、4月6日(土)「フタバから遠く離れて」アンコール上映の予定です。

今回もカフェ時のカンパをありがとうございました。経費を差し引いた17,000円を加藤監督の映画製作活動に寄付させていただきました。

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